着床前検査(PGT-A・PGT-SR)

当クリニックは日本産科婦人科学会が認める「PGT-A・SR承認実施施設」です。
私たちは2004年から患者さまの負担軽減のため、着床前検査の必要性を訴え、独自の啓蒙活動と技術の習得を行い、経験を積んで参りました。2004年当時は国内で着床前検査を実施している医療機関は他になく、日本全国から治療を求める患者さまに対して、平等に着床前検査を提供して参りました。月日の流れとともに国内の規制緩和も進み、2022年からは生殖補助医療を提供する全国の医療機関で着床前検査を行うことが可能となりました。そのような背景から、独自の啓蒙活動は一定の役割を終えたと認識し、これからは「PGT-A・SR承認実施施設」として、豊富な経験に裏打ちされたどこよりも高い技術の着床前検査を患者さまに提供して参ります。

尚、当クリニックでは男女の産み分けは受け付けておりません。

PGT(着床前遺伝学的検査)とは

着床前の胚に染色体あるいは遺伝子の異常がないかを調べる医療技術です。
米国生殖医療学会が呼称を変更する以前は、着床前診断と呼ばれていました。
不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査は着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)と着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)とに区分されます。

PGT-A

胚の染色体数に過不足(異数性)がないかを調べます。女性の年齢が上がると増加する染色体異数性を調べることで移植の不成功や移植後の流産を減らし、体外受精を受ける患者さまの負担を軽減することができます。

女性の年齢に対する異数性胚の割合

PGT-SR

カップルの染色体に、転座など何らかの構造異常がある場合(転座保因者)に行う検査です。染色体の数だけではなく構造異常由来の染色体の部分的な過不足がないかを調べます。転座を持つ方は流産を繰り返すことが多いので、PGT-SRをすることで流産を防ぎ早期の出産につなげることができます。

受検対象者

以下①②③のいずれかに該当する場合、検査の対象者となります。

① 体外受精胚移植で2回以上の不成功がある不妊症のカップル
② 流死産を2回以上繰り返したことのある不育症のカップル
③ 男女いずれかに染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている不育症(もしくは不妊症)のカップル

着床前診断の受検対象可否チャート

PGT-A・PGT-SRの技術

PGTでは通常の体外受精・胚移植に加え、胚生検、染色体検査という技術が用いられます。
胚生検とは胚から検査のために一部の細胞を採取する方法です。
当クリニックでは、受精後5~7日目に胚盤胞まで成長した受精卵の、将来胎盤など胎児以外の組織になる部分(栄養外胚葉)の細胞を5個程度採取しています。

PGT-A、PGT-SRの技術
胚生検の写真
豊富な経験と高い技術力

染色体検査は次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer)を用いたNGS法を行っております。
胚生検で胚から採取した細胞からDNAを抽出し、全ゲノム増幅と呼ばれる方法で何万倍にも増やします。増幅したDNAの塩基配列を解析して染色体の本数を推定する最新技術です。
検査結果は染色体番号順にグラフとして表します。例として、図の結果は3番染色体が3本あり、11番染色体は1本しかない数的異常が認められます。

PGT-A、PGT-SRの技術
次世代シーケンサーによる染色体検査

PGT-Aの有効性

染色体異数性がないと判定された胚を子宮に移植することで、通常の体外受精に比べて、胚移植あたりの妊娠率を上げて流産率を下げることができます。
具体的には日本産科婦人科学会ホームページに掲載されている『「不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR)」について』にて、動画で詳しく説明されています。

遺伝カウンセリング

PGTは体外受精の成績を上げるための方法です。体外受精をする必要のない方、またPGTの受検対象者に該当しない方は対象になりません。
医師が診察して、治療として体外受精が必要であり、かつ受検対象者に該当しPGTの効果が期待できると判断した場合に、患者さまとパートナーお二人そろって遺伝カウンセリングを受けていただきます。
遺伝カウンセリングでは、PGTを希望する理由、染色体異常などご家族で共有する不妊の原因がないかを知るための家族歴、過去の不妊治療歴、妊娠歴などを詳しくうかがいます。
そのうえで、PGTの方法、何が分かりどのような効果が期待できるのか、体外受精やPGTを受けることで生じるリスク、検査の限界などを詳しくお話しします。
PGTを希望される方の状況は様々です。PGTの有効性、必要性も異なります。
遺伝カウンセリングを受けた後、PGTを受けるかどうかお二人でよく相談して決めていただくことが大切です。

料金

体外受精や顕微授精、胚の凍結とは別に、下記費用がかかります。

個数 自費(税込)
1個 ¥110,000

※上記料金表は2024年7月1日より適用します。

PGTについてのQ&A

Q. PGTを受けるメリットはどのようなものでしょうか?

A.

1 染色体異数性胚の移植を避けることで、移植をしても着床しないという治療の不成功や、移植後の流産を減らし、体外受精を受ける患者さまの負担を軽減することができます。
通常の体外受精では、全ての胚盤胞をグレード順に移植していきます。たくさんの胚盤胞がとれる方の場合、移植を繰り返すだけで何年もかかる場合があります。その間に流産、死産をすればさらに時間が費やされるということになります。PGT-Aをして移植可能胚が得られれば、1つ目から妊娠継続可能な胚が移植できるわけですから、流産の心配も減り、早期の出産につながることが期待されます。
もし、移植可能胚が見つからなくても、次の月には新たな採卵へ向けての準備に取り掛かることができます。少しでも若いうちに採卵を繰り返すことにつながります。

2 染色体正常胚を移植してもうまくいかない場合には、着床不全、不育症がないかなど他の要因を追求する必要があることに気づき、治療結果の改善につなげることができます。通常の体外受精では着床しなくても、「きっと染色体異常が原因だと思いますよ、次は上手くいくでしょう」と見逃されがちですが、PGT-Aをしていれば、染色体正常胚を移植したのにうまくいかないということがはっきりしますから、次にどのような検査が必要かをすぐに考えていけるでしょう。

3 移植可能胚を見つけることができない場合も、PGTをすることで、自身の状況を知り、自身のデータをもとに納得してその後の治療選択をすることができます。

Q. 胚のグレードと染色体の情報は一致するのでしょうか?

A.

沢山の方から取った沢山の胚盤胞をグレード順に並べれば、グレードの高いものの中には染色体情報の良いものが多いです。しかし、一人の方からとった胚盤胞をグレード順位に並べても、染色体との関連性はありません。グレードトップの胚が染色体異常胚で、グレードの低い胚が正常胚ということは普通です。
染色体情報が良いと診断されたものが複数ある場合には、グレード順に移植していくということになります。グレードの良い胚は着床しやすい胚です。

Q. 30歳です。流産を繰り返したのですが、PGTで流産せずに出産できますか?

A.

30歳の方の場合、胚盤胞の染色体の数的異常率は30%くらいです。今までの流産の原因が染色体異常であった可能性はあまり高くはありません。したがって、体外受精をして、PGTを受け染色体正常胚を移植しても流産になる可能性もあり、慎重に考える必要があります。まずは不育症などの検査を受けられることをお勧めします。
ご夫妻の染色体検査をして染色体構造異常が見つかればPGT-SRの対象になります。PGT-SRが必要な方の場合には、特に移植可能な胚の割合が低いので、染色体異数性の割合が低い若い年齢でのPGT-SRをお勧めします。