精子の調整方法 検査・治療

1. 密度勾配を利用する方法 

成熟精子の比重が未成熟精子よりも大きいことを利用して回収します。
比重を調整した専用の液の上に、精液を重ねて、遠心分離します。密度勾配により不純物を取り除き、細胞密度の高い成熟精子を回収します。回収した濃縮精液を培養液で洗浄し、受精に備えます。

密度勾配の図

2. DNA断片化した精子を取り除く方法

精子DNA断片化とは

精子DNAの構造が損傷している状態を「精子DNA断片化」といいます。その主な原因は男性ご自身のストレスだと言われておりますが、精子の調整に使用する遠心分離機による物理的な刺激も精子DNA断片化を引き起こすと考えられています。
「精子DNA断片化」は、胚発生の3 日目以降に負の影響を与えることが知られています。
胚盤胞到達率や妊娠率の低下、流産率の上昇に関連すると考えられています。そのため、原因がわからない不妊と診断された場合、適切な精子を選択すると、治療結果が改善される可能性があります。*1

多くのヒト細胞には、DNA断片化などの異常を修復する能力を備えていますが、精子はその修復機能を備えていません。そのため、DNA断片化が起こった精子が卵子と受精した場合、卵子側のDNA修復機能により胚の修復が起こると考えられています。しかし、胚発達が芳しくない患者さまや、習慣性流産の患者さまでは、卵子が持つDNA修復機能そのものが低下している可能性があります。したがって、ART成績の低下を招かないようにするためには、DNA 断片化が起こっていない最適な精子を選択することが重要です。*2

*1:出典)Tesarik J. Reproductive BioMedicine Online. 2005 Mar;10(3):370-5.
*2:出典)Horta F. et al. Human Reproduction. 2020 Feb 28.

膜構造を用いた生理学的精子選択術-ZyMōt(ザイモート)

※顕微授精のオプション治療です。運動精子が低値/精液量が少ない場合は選択できないことがあります。

精子自身の運動による分離法です。
自費診療の治療ですが先進医療の適用(混合診療可)となっていますので、保険診療の方もお選びいただけます。
当クリニックでは、「ZyMōtスパームセパレーター」という専用キットを使用しています。
このキットには特殊なフィルターがついており、精液を注入すると、最も運動性が高い精子がフィルターを通って上方に泳いでいきます。これにより、動いていない精子、頭部が大きいなどの奇形精子、不純物などを自然に分けることができます。
この専用キットで回収された精子のDNA断片化率は低く、密度勾配を利用する従来法に比べ、胚盤胞到達率・着床率・妊娠率が向上するとの報告があり、受精や胚発生が悪く良好な胚を得ることができない方に使用することで、結果が改善される可能性があります。

顕微授精を希望され、より質の良い精子を使用したいという患者さまにおすすめです。

ZyMōtスパームセパレーター

電気泳動システム-Felix

※顕微授精のオプション治療です。運動精子が低値/精液量が少ない場合は選択できないことがあります。

電気泳動システムとフィルターを使用する分離法です。精子DNA断片化が少ない精子を分離し、さらに質の高い精子を集めることが可能と考えられています。今のところ国内で導入している医療機関は極めて少ないと認識しています。
Felixは2種類のフィルターを使用しています。まず一定の大きさを持つフィルター(分離膜)で、受精に不要な始原生殖細胞や白血球などを取り除いています。次に、陽極(+)に引き付けられる精子の性質を利用し、もう一つのフィルター(制限膜)で精子をキャッチています。
また、精子の調整にかかる時間が従来方法と比較して、3分の1~5分の1まで短縮され、その分、精子にかかる負荷が軽減されます。

以上の仕組みから、質の高い精子を回収できるため、顕微授精を選択される方で、受精率や胚盤胞発生率があまり芳しくない方におすすめです。

電気泳動システム-Felix

精子調整方法の比較

密度勾配法 ZyMōt
(ザイモート)
Felix
(フェリックス)
保険適用 × ×
先進医療の適用 ×
治療の選択 保険診療の方
自費診療の方
保険診療の方
自費診療の方
自費診療の方のみ
凍結精子の利用 × ×
DNA断片化除去 ×
精子DNA断片化率 多い 少ない 極めて少ない
精子の質 バラつきあり やや高い 高い
受精方法の選択 体外受精
顕微授精
顕微授精のみ 顕微授精のみ